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会計実務家コラム
会計ダイバーシティでは、会計領域でご活躍されている実務家の方々のコラム記事などをご紹介してまいります。
業界の動向や時事問題などをテーマにした独自の視点・見解の内容となっておりますので、新たな発見の一助になれば幸いです。
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田原中男氏の尖った提案
*毎週の連載から不定期での連載に変更となりました。
2025/04/22 その449 日本経済の長期トレンドと今後の対策 (2)
最近話題になるJOB型賃金が本当に改革になり、生産性が上がるのでしょうか。
JOB型賃金の本質はJOBには固有の賃金がありその額をそのJOBの従事者に支払うということです。少しわかりにくい概念なので別の言い方をしてみます。
旧来の日本企業では『人』がまずあり、その『人』を組み合わせた組織を作り、『人』に仕事と肩書きを与えて処遇するというものですから『人中心』の組織で、その典型が新卒一括採用=人材の囲い込みとなります。
一方で、日本以外では企業目的達成のための『組織』が先にあります、そして組織の作り方としては必要最低限の意思決定レベル数と範囲を規定し、その価値に値する値段『年棒』を決めますがその際に最も重要な指標となるのは市場価格です。つまり人材の確保のためには競争力のある賃金水準を示す必要がありますので需要の大きい職種の賃金は高く(最近の例ではIT系職種)、需要の少ない職種では安くなります。
そしてその組織、ポジションに適合した人材を採用しますから一般的に新卒のような未経験者は不利になり新卒者はかなり安い職場からスタートすることになります。それを避けるのが『MBA資格や弁護士資格』となります。振り返って最近日本で言われているJOB型賃金というのはこのような発想の転換の結果なのでしょうか、どうも違うようで、単に年功による賃金上昇を避けるための方便になっているのではないでしょうか。
ここでゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏のコメントを引用してみます。
東京オリンピックの前年からすでに景気は減退していました。急速なインフラ投資の反動で、オリンピック後の倒産企業数は3倍にも急増しています。1964年からの「証券不況」も事態をさらに悪化させて、被害拡大防止のために日銀は公定歩合を1%以上下げました。しかしこれも焼け石に水で、1965年5月には山一證券への日銀特融を決定し、同年7月には、戦後初となる赤字国債の発行も行いました。
この不況が、「資本の自由化」が引き起こす「外資脅威論」にさらに拍車をかけます。「乗っ取り」や「植民地化」という言葉にヒステリックに反応するうち、やがて財閥系や大手銀行系が手を取り合い、買収防止策として企業同士の持ち合いも含めた安定株式比率を高めていきます。1973年度末の法人持株比率はなんと66.9%にも達しました。
この「守り」に特化した閉鎖的な経済活動が、護送船団方式や、仲間内で根回しして経営に文句を言わせない「しゃんしゃん株主総会」などを定着させて、日本企業のガバナンスを著しく低下させていったことに、異論を挟む方はいらっしゃらないのではないでしょうか。
このようにとにかく「会社を守る」ことが何をおいても優先されるようになると、経営者に必要なのは調整能力だけになっていきます。数字やサイエンスに基づく合理的な判断をしないので、他人の意見に耳を貸さず、とにかく「直感」で会社を経営するようになっていくのです。その暴走がバブルにつながります。
そんな「暴走経営」がこの20年、日本経済に与えたダメージは計り知れません。
ものづくりメーカーは、社会のニーズや消費者の声よりも、企業側の「技術」や「品質」という直感が正しいと考える「product out」にとらわれ衰退しました。そしてバブル崩壊後も、データに基づいた客観的な分析をせず、直感に基づく表面的な分析をして抜本的な改革ができなかった結果が、この「失われた20年」なのです。
このように日本経済の衰退を要因分析していくと、「1964年体制」に原因があることは明白です。つまり、「1964年は東京オリンピックで日本の飛躍が始まった年」というのは残念ながら間違いで、実は経済の衰退をスタートさせてしまった「国運の分岐点」なのです。
「1964年体制」がつくった産業構造を元に戻すことは容易なことではありません。その動かぬ証が、1990年代から実行されたさまざまな日本の改革がことごとく失敗してきたという事実です。その結果、国の借金は1200兆円にまで膨らみました。
人口減少などさまざまな「危機」が迫る日本には、もはや悠長なことを言っている時間はありません。日本経済を立て直すためにも、古い常識や”神話”を捨てて、数字と事実に基づく要因分析を、すべての国民が受け入れる時期にさしかかっているのです。
以上の考察のまとめを下記のグラフで示してあります。最初にも書きましたがこれからの対策は早急に次のことを実施することでしょう。
インフレ目標2%自体は悪いことではありませんが生産性がそれ以上に上昇しないと実質的な改善は実現できないことを肝に銘ずる必要があります。
また、人口特に生産労働人口の減少はどんなに出生率を上げてもこれから30年間は継続するので徹底的な省人化と外国人材の活用を速やかに実施すべきでしょう。特に外国人人材については既に各国で有能な人材の確保競争が始まっていますので日本の対応も抜本的に変える必要があります。
特定技能者でも5年間の制限付き、しかも家族の帯同を認めないなどというのは人権侵害も甚だしくとても優秀な人材の確保はできません。それ以上に優秀な女性人材が男女格差のある日本から海外に流出していますので、二重の意味で大きな課題です。
2025/04/22 その449 日本経済の長期トレンドと今後の対策 (2)
最近話題になるJOB型賃金が本当に改革になり、生産性が上がるのでしょうか。
JOB型賃金の本質はJOBには固有の賃金がありその額をそのJOBの従事者に支払うということです。少しわかりにくい概念なので別の言い方をしてみます。
旧来の日本企業では『人』がまずあり、その『人』を組み合わせた組織を作り、『人』に仕事と肩書きを与えて処遇するというものですから『人中心』の組織で、その典型が新卒一括採用=人材の囲い込みとなります。
一方で、日本以外では企業目的達成のための『組織』が先にあります、そして組織の作り方としては必要最低限の意思決定レベル数と範囲を規定し、その価値に値する値段『年棒』を決めますがその際に最も重要な指標となるのは市場価格です。つまり人材の確保のためには競争力のある賃金水準を示す必要がありますので需要の大きい職種の賃金は高く(最近の例ではIT系職種)、需要の少ない職種では安くなります。
そしてその組織、ポジションに適合した人材を採用しますから一般的に新卒のような未経験者は不利になり新卒者はかなり安い職場からスタートすることになります。それを避けるのが『MBA資格や弁護士資格』となります。振り返って最近日本で言われているJOB型賃金というのはこのような発想の転換の結果なのでしょうか、どうも違うようで、単に年功による賃金上昇を避けるための方便になっているのではないでしょうか。
ここでゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏のコメントを引用してみます。
東京オリンピックの前年からすでに景気は減退していました。急速なインフラ投資の反動で、オリンピック後の倒産企業数は3倍にも急増しています。1964年からの「証券不況」も事態をさらに悪化させて、被害拡大防止のために日銀は公定歩合を1%以上下げました。しかしこれも焼け石に水で、1965年5月には山一證券への日銀特融を決定し、同年7月には、戦後初となる赤字国債の発行も行いました。
この不況が、「資本の自由化」が引き起こす「外資脅威論」にさらに拍車をかけます。「乗っ取り」や「植民地化」という言葉にヒステリックに反応するうち、やがて財閥系や大手銀行系が手を取り合い、買収防止策として企業同士の持ち合いも含めた安定株式比率を高めていきます。1973年度末の法人持株比率はなんと66.9%にも達しました。
この「守り」に特化した閉鎖的な経済活動が、護送船団方式や、仲間内で根回しして経営に文句を言わせない「しゃんしゃん株主総会」などを定着させて、日本企業のガバナンスを著しく低下させていったことに、異論を挟む方はいらっしゃらないのではないでしょうか。
このようにとにかく「会社を守る」ことが何をおいても優先されるようになると、経営者に必要なのは調整能力だけになっていきます。数字やサイエンスに基づく合理的な判断をしないので、他人の意見に耳を貸さず、とにかく「直感」で会社を経営するようになっていくのです。その暴走がバブルにつながります。
そんな「暴走経営」がこの20年、日本経済に与えたダメージは計り知れません。
ものづくりメーカーは、社会のニーズや消費者の声よりも、企業側の「技術」や「品質」という直感が正しいと考える「product out」にとらわれ衰退しました。そしてバブル崩壊後も、データに基づいた客観的な分析をせず、直感に基づく表面的な分析をして抜本的な改革ができなかった結果が、この「失われた20年」なのです。
このように日本経済の衰退を要因分析していくと、「1964年体制」に原因があることは明白です。つまり、「1964年は東京オリンピックで日本の飛躍が始まった年」というのは残念ながら間違いで、実は経済の衰退をスタートさせてしまった「国運の分岐点」なのです。
「1964年体制」がつくった産業構造を元に戻すことは容易なことではありません。その動かぬ証が、1990年代から実行されたさまざまな日本の改革がことごとく失敗してきたという事実です。その結果、国の借金は1200兆円にまで膨らみました。
人口減少などさまざまな「危機」が迫る日本には、もはや悠長なことを言っている時間はありません。日本経済を立て直すためにも、古い常識や”神話”を捨てて、数字と事実に基づく要因分析を、すべての国民が受け入れる時期にさしかかっているのです。
以上の考察のまとめを下記のグラフで示してあります。最初にも書きましたがこれからの対策は早急に次のことを実施することでしょう。
インフレ目標2%自体は悪いことではありませんが生産性がそれ以上に上昇しないと実質的な改善は実現できないことを肝に銘ずる必要があります。
また、人口特に生産労働人口の減少はどんなに出生率を上げてもこれから30年間は継続するので徹底的な省人化と外国人材の活用を速やかに実施すべきでしょう。特に外国人人材については既に各国で有能な人材の確保競争が始まっていますので日本の対応も抜本的に変える必要があります。
特定技能者でも5年間の制限付き、しかも家族の帯同を認めないなどというのは人権侵害も甚だしくとても優秀な人材の確保はできません。それ以上に優秀な女性人材が男女格差のある日本から海外に流出していますので、二重の意味で大きな課題です。
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企業経営者が決心をし、リスクを取り、それが社員を動かし結果として政治を動かしようやく社会が変わるのです。男女差別に限らず夫婦別姓にしても、同性婚にしても、あるいは英語力にしても世界標準からとてつもなく遅れている結果が国際競争力比較でOECD最下位、発展途上国にも抜かれているという現実がここにあります。
浮世絵が世界を魅了し、明治以来の30年間で近代化を成功させ、終戦から20年で復活を遂げ、テレビ、自動車、半導体で隆盛を極めるほどのアイデアと集中力と精神力を持ってすれば現在の困難から抜け出すことは難しくありません。
一人一人が主体的に、周囲に流されることなく、そして惰性から逃れて改革を進めることが求められています。
変化を求め、変化を恐れず挑戦することが求められています。
コラム著者 BMDリサーチ代表 田原中男氏
1946年生まれ。東京大学経済学部、ハーバードビジネススクール(PMD)CIA(公認内部監査人)
1970年、ソニー入社。人事、ビジネス企画、管理業務、子会社再建、内部監査を担当。特に内部監査については、金融、映画等すべてのビジネス領域を包括的に評価することを可能とするグローバルな内部監査体制を構築。2003年からはグローバルなソニーグループ全体の内部統制体制構築に勤める。ソニー退社後、新日本監査法人アドバイザーを経て、現在、内部統制コンサルティングBMDリサーチ(http://www.bmd-r.com)代表
1970年、ソニー入社。人事、ビジネス企画、管理業務、子会社再建、内部監査を担当。特に内部監査については、金融、映画等すべてのビジネス領域を包括的に評価することを可能とするグローバルな内部監査体制を構築。2003年からはグローバルなソニーグループ全体の内部統制体制構築に勤める。ソニー退社後、新日本監査法人アドバイザーを経て、現在、内部統制コンサルティングBMDリサーチ(http://www.bmd-r.com)代表
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BMDリサーチ http://www.bmd-r.com
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