- TOP
- ≫ メッセージ
会計実務家コラム
会計ダイバーシティでは、会計領域でご活躍されている実務家の方々のコラム記事などをご紹介してまいります。
業界の動向や時事問題などをテーマにした独自の視点・見解の内容となっておりますので、新たな発見の一助になれば幸いです。
業界の動向や時事問題などをテーマにした独自の視点・見解の内容となっておりますので、新たな発見の一助になれば幸いです。
田原中男氏の尖った提案
*毎週の連載から不定期での連載に変更となりました。
2024/6/12 その446 牙の無い若者と惰性に生きる老人
リニア新幹線、大阪万博、北海道新幹線の札幌延伸は惰性の産物で過去の成功体験に漫然と従った結果予想外の困難に直面しているものの打開策も見えないし、中止という概念もありません。
リニアと北海道新幹線を検証するといずれも当初計画を大幅に前倒ししていた計画が結局当初計画あたりまで遅れていますが、報道では「開業大幅遅れ」という見出しで「当初計画通り」という記事はありません。
しかし建設資金は大幅な増額となっていて採算性がどうなるのかという検証もなされていません、つまり「作ること」が目標になっています。
一方でこれらの無駄遣いを怒る若者の牙もありません。
象徴的なのは大幅な追加費用の責任についても追求されることなく単に予算が追加されそのほとんどが税金で賄われているということです。それでなくてもGDPの3倍もの債務を抱える国がさらなる借金を簡単に許していてどこからも追求の声が上がらないことは最近の日本衰退の象徴のような現象です。
ここでリニア新幹線を例にとって検証してみましょう。
そもそも中央新幹線構想として1970年代後半に始まりJ R東海がリニア路線として推進し1990年には山梨リニア実験線が完成しています。当初の計画時点ではまだ高度成長の時代でそれなりの期待値を持っていたのかも知れませんがそもそも何を目指していたのでしょうか。現状の2時間半が1時間になるメリットは何でしょうか。
また、8割がトンネルとなれば景色は見えず観光旅行には向かないし、そもそも観光旅行であればそんなに早くする必要があるとは思えません。推測するに、JR技術者の自己満足、JRそのものもアドバルーンとして最適。しかし、冷静に考えると本当のメリットは誰のためなのでしょうか。J R東海が推進していることもあり現時点では名古屋から先関西地域への延伸計画は未定ですから東京-大阪間の既存新幹線に対する代替ということも時間短縮も当面は無いのです。
一方でリニアに限らず各地の新幹線は完成すると在来線が廃止され、第三セクターによる運営で存続ということになっていますが根本的に間違いがあります。J Rが民営化されたので利益追求した結果新幹線完成=在来線廃止によって収益率が大幅に改善されることは当然かもしれませんが、鉄道の持つ社会インフラの役割はどうなるのでしょうか。
港や道路、そして空港は社会インフラとして公共施設として建設され民間企業や個人は利用料を支払っていますが鉄道だけは運営会社が自ら維持管理しています。かつてはJ Rは国有でありその意味では国が社会インフラとして整備してきたのでしょうが民営化とともに社会インフラ部分のレールまで払い下げてしまいその後の新規建設は企業で行うということになったので新幹線完成=在来線廃止というのも一理があります。
大都市圏の私鉄鉄道も自ら線路を建設し運用しているのですがそもそも収益性が低ければ新線は建設しませんので例えて言えば山手線は線路ごと民営化しても問題がないということでしょうか。実際、J R東日本では山手線での収益で他の赤字路線を運営しているのでこの仕組みが変更されれば山手線の運賃はもう少し安くなるかもしれません。
さて、これまで在来線で担ってきた地元住民へのサービス、特に通勤通学の足が奪われることをどう考えれば良いのでしょうか。各地で新幹線が開通すると地方都市から大都市へのアクセス、特に東京へのアクセスが便利になったと喧伝されていますが実際何が起きているかといえば、地方衰退の後押しになってしまっています。
東京や大阪,福岡という大都市へのアクセスが良いということは人が大都市に流れてしまうということで実際に人口動態を見ると東京のみが増加して地方都市の人口減少が激しくなっています。
在来線という社会インフラを無くしてしまった結果ではないでしょうか。ますます不便になる地方に居残るデメリットと大都市で成長の機会を得るメリットを比較すれば人が大都市に流れることも致し方ないのかもしれません。
ところで若者の牙はいつから無くなり、またどうして無くなったのでしょうか。
70年代以降の高度成長期に徐々に無くなりつつあったのではないでしょうか。その理由は、大学闘争の終焉とともに若者は体制に取り込まれ今度は企業戦士として世界中で活動することになり内なる矛盾を脇に置いてしまった結果ではないでしょうか。一度「立てカン」もない大学で生活し一定の豊かさを享受することで牙を研ぐ意識も意欲も実行力も失っていってしまったのでしょう。
出生率が下がり始めることとも機を一にしています。
貧困=>抜け出すための活力=>豊かさの実現=>闘争心の欠如=>人口減少。そしてその先には衰退への恐れ=>活力、時として暴力的な排除=>新しい活力。そして再び成長へのサイクルが回り始めることになるでしょう。
しかし歴史を見ると二度目の活性化は大衆を巻き込んだ集団的行動になる可能性が高く独裁的な体制を作り易くするので結果的に破滅へと向かうことになります。ローマ帝国も大英帝国もその大きさ故に自らの重みに耐えられず衰退の道を辿ることになってしまいました。
日本に限らずこのような現象はどこの先進国でも見られますが、人口減少と衰退が見られるのは日本のみで近い将来韓国と中国が追随するでしょう。欧米諸国と比較してアジア諸国の違いはどこになるのでしょうか。多様性と純粋主義の差にあるのではないでしょうか。
日本と同じように韓国も移民を極端に制限していますし中国も漢民族至上主義で一応他民族の存在を認めているものの公式に認められた13種族に限りその民族の人口増加を望んではいません、特にイスラム系の民族が多い新疆ウイグル自治区での漢民族化政策とイスラム系への極端な締め付けは周知の事実です。
これに対し欧米諸国では大量の移民を受け入れ、その人口増加率が高いことが社会問題化していますが同時に人口減少を食い止め、経済活動の水準も維持しています。それでも内部矛盾も多く、それが国民国家的な枠組みを望む人たちへの不安となり、典型的にはトランプ現象に見られる保守派の強行姿勢が見受けられます。
アメリカでのトランプ支持者はトランプの政策やトランプ個人に共鳴しているのではなく現状維持政策(MAGAの主張をよく見ると結局今のままが良いという主張になる)を支持しているのです。現状がある程度満足ができるのであれば変化を嫌い、同時に大都市圏で国際的なビジネスで活躍しリッチになった人々への嫉妬が生まれます。
アメリカの投票傾向を見ると明白で両海岸では民主党が強く大陸の真ん中、中西部から南東部にかけては共和党が強くトランプ支持者が多いのです。
さて日本の現状に戻ると何が求められているのでしょうか。惰性で現状維持することから抜け出す必要があるということです。
現状維持とは鍋ガエルのように気持ちの良いまま茹で上がり鍋から出られないことを示していますのでやはり「牙を剥く」存在が必要になります。牙を剥く存在はうるさがれ、時として排斥され、報酬は期待できず損な役回りですが世の中の変革には必要な存在です。
社会の変革には一世代かかりますので中高年が主体的に関わるのは難しくなります、何故ならば変革が実現するまで生きながらえることが難しいからでその為にも若者に牙を剥いてもらう必要があり中高年、老人はその主張を大きくサポートすることでようやく変革が実現できます。
しかし最近の投票結果を見ると若年層の投票率が低く投票先も保守的で現状維持派となり中高年から高年齢者層では逆に投票率も高く批判票が多い結果となっています。「牙を剥いているのは若者ではなく老人だ」ということですが恐らく過去の経験がこのような投票行動になっているのではないでしょうか。「何かがおかしい」「このままでは危ない」という身体に染みついた感覚なのかもしれません、戦前の「いつの間にか戦争」という体験、あるいはその体験を持った親から直接聞いたり感じたりした世代は忍び寄る危機を感じることができるのかもしれません。
現在の議員の平均年齢を見るとこの同じ世代の人がまだ多いのですが何故か体験がうまく伝えられていない、あるいは贖罪感があるので逆に敢えて過去を否定しているのかもしれません。このような罠から抜け出すには、国会で議員の平均年齢が大幅に下がり、女性議員が少なくとも4割程度となり、国や地方自治体も年功序列でなく若手に大胆な発想で政策を発案してもらうことが必要です。
そのためには官公庁や重厚長大企業でのエリート任官、100年来の決まり切った出世コースを廃止し実力主義での任官という組織運営の抜本対策が必須です。ここまで書いてくるとこの変革がいかに困難であるかが明白になり心が折れるような気がしますがそれでも突き進んでいくだけの気概が必要です。
2024/6/12 その446 牙の無い若者と惰性に生きる老人
リニア新幹線、大阪万博、北海道新幹線の札幌延伸は惰性の産物で過去の成功体験に漫然と従った結果予想外の困難に直面しているものの打開策も見えないし、中止という概念もありません。
リニアと北海道新幹線を検証するといずれも当初計画を大幅に前倒ししていた計画が結局当初計画あたりまで遅れていますが、報道では「開業大幅遅れ」という見出しで「当初計画通り」という記事はありません。
しかし建設資金は大幅な増額となっていて採算性がどうなるのかという検証もなされていません、つまり「作ること」が目標になっています。
一方でこれらの無駄遣いを怒る若者の牙もありません。
象徴的なのは大幅な追加費用の責任についても追求されることなく単に予算が追加されそのほとんどが税金で賄われているということです。それでなくてもGDPの3倍もの債務を抱える国がさらなる借金を簡単に許していてどこからも追求の声が上がらないことは最近の日本衰退の象徴のような現象です。
ここでリニア新幹線を例にとって検証してみましょう。
そもそも中央新幹線構想として1970年代後半に始まりJ R東海がリニア路線として推進し1990年には山梨リニア実験線が完成しています。当初の計画時点ではまだ高度成長の時代でそれなりの期待値を持っていたのかも知れませんがそもそも何を目指していたのでしょうか。現状の2時間半が1時間になるメリットは何でしょうか。
また、8割がトンネルとなれば景色は見えず観光旅行には向かないし、そもそも観光旅行であればそんなに早くする必要があるとは思えません。推測するに、JR技術者の自己満足、JRそのものもアドバルーンとして最適。しかし、冷静に考えると本当のメリットは誰のためなのでしょうか。J R東海が推進していることもあり現時点では名古屋から先関西地域への延伸計画は未定ですから東京-大阪間の既存新幹線に対する代替ということも時間短縮も当面は無いのです。
一方でリニアに限らず各地の新幹線は完成すると在来線が廃止され、第三セクターによる運営で存続ということになっていますが根本的に間違いがあります。J Rが民営化されたので利益追求した結果新幹線完成=在来線廃止によって収益率が大幅に改善されることは当然かもしれませんが、鉄道の持つ社会インフラの役割はどうなるのでしょうか。
港や道路、そして空港は社会インフラとして公共施設として建設され民間企業や個人は利用料を支払っていますが鉄道だけは運営会社が自ら維持管理しています。かつてはJ Rは国有でありその意味では国が社会インフラとして整備してきたのでしょうが民営化とともに社会インフラ部分のレールまで払い下げてしまいその後の新規建設は企業で行うということになったので新幹線完成=在来線廃止というのも一理があります。
大都市圏の私鉄鉄道も自ら線路を建設し運用しているのですがそもそも収益性が低ければ新線は建設しませんので例えて言えば山手線は線路ごと民営化しても問題がないということでしょうか。実際、J R東日本では山手線での収益で他の赤字路線を運営しているのでこの仕組みが変更されれば山手線の運賃はもう少し安くなるかもしれません。
さて、これまで在来線で担ってきた地元住民へのサービス、特に通勤通学の足が奪われることをどう考えれば良いのでしょうか。各地で新幹線が開通すると地方都市から大都市へのアクセス、特に東京へのアクセスが便利になったと喧伝されていますが実際何が起きているかといえば、地方衰退の後押しになってしまっています。
東京や大阪,福岡という大都市へのアクセスが良いということは人が大都市に流れてしまうということで実際に人口動態を見ると東京のみが増加して地方都市の人口減少が激しくなっています。
在来線という社会インフラを無くしてしまった結果ではないでしょうか。ますます不便になる地方に居残るデメリットと大都市で成長の機会を得るメリットを比較すれば人が大都市に流れることも致し方ないのかもしれません。
ところで若者の牙はいつから無くなり、またどうして無くなったのでしょうか。
70年代以降の高度成長期に徐々に無くなりつつあったのではないでしょうか。その理由は、大学闘争の終焉とともに若者は体制に取り込まれ今度は企業戦士として世界中で活動することになり内なる矛盾を脇に置いてしまった結果ではないでしょうか。一度「立てカン」もない大学で生活し一定の豊かさを享受することで牙を研ぐ意識も意欲も実行力も失っていってしまったのでしょう。
出生率が下がり始めることとも機を一にしています。
貧困=>抜け出すための活力=>豊かさの実現=>闘争心の欠如=>人口減少。そしてその先には衰退への恐れ=>活力、時として暴力的な排除=>新しい活力。そして再び成長へのサイクルが回り始めることになるでしょう。
しかし歴史を見ると二度目の活性化は大衆を巻き込んだ集団的行動になる可能性が高く独裁的な体制を作り易くするので結果的に破滅へと向かうことになります。ローマ帝国も大英帝国もその大きさ故に自らの重みに耐えられず衰退の道を辿ることになってしまいました。
日本に限らずこのような現象はどこの先進国でも見られますが、人口減少と衰退が見られるのは日本のみで近い将来韓国と中国が追随するでしょう。欧米諸国と比較してアジア諸国の違いはどこになるのでしょうか。多様性と純粋主義の差にあるのではないでしょうか。
日本と同じように韓国も移民を極端に制限していますし中国も漢民族至上主義で一応他民族の存在を認めているものの公式に認められた13種族に限りその民族の人口増加を望んではいません、特にイスラム系の民族が多い新疆ウイグル自治区での漢民族化政策とイスラム系への極端な締め付けは周知の事実です。
これに対し欧米諸国では大量の移民を受け入れ、その人口増加率が高いことが社会問題化していますが同時に人口減少を食い止め、経済活動の水準も維持しています。それでも内部矛盾も多く、それが国民国家的な枠組みを望む人たちへの不安となり、典型的にはトランプ現象に見られる保守派の強行姿勢が見受けられます。
アメリカでのトランプ支持者はトランプの政策やトランプ個人に共鳴しているのではなく現状維持政策(MAGAの主張をよく見ると結局今のままが良いという主張になる)を支持しているのです。現状がある程度満足ができるのであれば変化を嫌い、同時に大都市圏で国際的なビジネスで活躍しリッチになった人々への嫉妬が生まれます。
アメリカの投票傾向を見ると明白で両海岸では民主党が強く大陸の真ん中、中西部から南東部にかけては共和党が強くトランプ支持者が多いのです。
さて日本の現状に戻ると何が求められているのでしょうか。惰性で現状維持することから抜け出す必要があるということです。
現状維持とは鍋ガエルのように気持ちの良いまま茹で上がり鍋から出られないことを示していますのでやはり「牙を剥く」存在が必要になります。牙を剥く存在はうるさがれ、時として排斥され、報酬は期待できず損な役回りですが世の中の変革には必要な存在です。
社会の変革には一世代かかりますので中高年が主体的に関わるのは難しくなります、何故ならば変革が実現するまで生きながらえることが難しいからでその為にも若者に牙を剥いてもらう必要があり中高年、老人はその主張を大きくサポートすることでようやく変革が実現できます。
しかし最近の投票結果を見ると若年層の投票率が低く投票先も保守的で現状維持派となり中高年から高年齢者層では逆に投票率も高く批判票が多い結果となっています。「牙を剥いているのは若者ではなく老人だ」ということですが恐らく過去の経験がこのような投票行動になっているのではないでしょうか。「何かがおかしい」「このままでは危ない」という身体に染みついた感覚なのかもしれません、戦前の「いつの間にか戦争」という体験、あるいはその体験を持った親から直接聞いたり感じたりした世代は忍び寄る危機を感じることができるのかもしれません。
現在の議員の平均年齢を見るとこの同じ世代の人がまだ多いのですが何故か体験がうまく伝えられていない、あるいは贖罪感があるので逆に敢えて過去を否定しているのかもしれません。このような罠から抜け出すには、国会で議員の平均年齢が大幅に下がり、女性議員が少なくとも4割程度となり、国や地方自治体も年功序列でなく若手に大胆な発想で政策を発案してもらうことが必要です。
そのためには官公庁や重厚長大企業でのエリート任官、100年来の決まり切った出世コースを廃止し実力主義での任官という組織運営の抜本対策が必須です。ここまで書いてくるとこの変革がいかに困難であるかが明白になり心が折れるような気がしますがそれでも突き進んでいくだけの気概が必要です。
コラム著者 BMDリサーチ代表 田原中男氏
1946年生まれ。東京大学経済学部、ハーバードビジネススクール(PMD)CIA(公認内部監査人)
1970年、ソニー入社。人事、ビジネス企画、管理業務、子会社再建、内部監査を担当。特に内部監査については、金融、映画等すべてのビジネス領域を包括的に評価することを可能とするグローバルな内部監査体制を構築。2003年からはグローバルなソニーグループ全体の内部統制体制構築に勤める。ソニー退社後、新日本監査法人アドバイザーを経て、現在、内部統制コンサルティングBMDリサーチ(http://www.bmd-r.com)代表
1970年、ソニー入社。人事、ビジネス企画、管理業務、子会社再建、内部監査を担当。特に内部監査については、金融、映画等すべてのビジネス領域を包括的に評価することを可能とするグローバルな内部監査体制を構築。2003年からはグローバルなソニーグループ全体の内部統制体制構築に勤める。ソニー退社後、新日本監査法人アドバイザーを経て、現在、内部統制コンサルティングBMDリサーチ(http://www.bmd-r.com)代表
田原中男氏の尖った提案 バックナンバー
バックナンバーは下記URLよりご覧下さい。
BMDリサーチ http://www.bmd-r.com
BMDリサーチ http://www.bmd-r.com