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会計実務家コラム

会計ダイバーシティでは、会計領域でご活躍されている実務家の方々のコラム記事などをご紹介してまいります。
業界の動向や時事問題などをテーマにした独自の視点・見解の内容となっておりますので、新たな発見の一助になれば幸いです。

田原中男氏の尖った提案

2018/5/30 その157 翻訳と文化

明治以来長く高等教育では『原書に当たれ』と言われ学生は懸命に英語、ドイツ語、フランス語を学びながら学問を習得していましたが、戦後になって翻訳書が一般に出回るようになるといつの間にか海外の学説も日本語で勉強することになりました。
このこと自体は良いことですが、一つだけ欠点があります。

それは翻訳はあくまでも翻訳であって原書の持つニュアンスや文化的な背景まで本当に訳されているかどうかという疑問が残ることです。

言葉は話されている地域の文化が反映されていますので翻訳した時に文化的背景が100%伝わるかどうか、あるいは十分な翻訳がなされていても読む側に他国の文化的背景の知識がなければ理解は完全ではありません。

ここでいくつかの例を出して見ます。

AccountabilityとIntegrityです

一般的にAccountabilityは『説明責任』と訳されています。

Accountabilityは結果責任ということで既に結果が現れているため説明ができる状況ですから、結果に対しての責任の所在を明確にするという意味が強くなります。『説明責任』という翻訳では責任の所在という概念が薄く感じられます

もう一つの例はIntegrityで、『誠実性』と訳されています。

英語の辞書によればThe quality of being honest and having strong moral principlesと書いてあり『強い道徳的原則に則った質の高い誠実さ』となり、単なる『誠実な』というより強い内容であることがわかります。

欧米の社会では『Integrityのない人だ』という表現は単に誠実でないというより強い意味があり『人として信用できない』という不名誉なことになります。

この二つの言葉に限りませんが、背景にあるのはキリスト教です。
神に対する責任であり、神との契約の遵守ができているのかということであり、単に約束した相手や利害関係にある人たちとの約束や誠実さではなく、あくまでも神の前で誓約できるか、説明できるかということが背景にあります。
日本語になった途端にこのような背景にある文化的側面が抜け落ちてしまいますのでなんとなく違和感が残るのでしょう。

日本でも『お天道様に対して』という表現がありますが最近の状況はどうでしょうか。
社会全体にこのような規範が薄まってしまっているのではないでしょうか。

日大のフットボールの件ではまさに『Accountability』が必要なのですが、何があったのかという事実とその責任が明確になっていません。
社会が社会として成り立つのは法律による規制ではなく個人それぞれが持つ社会規範を守るということが基本になります。

コラム著者 BMDリサーチ代表 田原中男氏

1946年生まれ。東京大学経済学部、ハーバードビジネススクール(PMD)CIA(公認内部監査人)
1970年、ソニー入社。人事、ビジネス企画、管理業務、子会社再建、内部監査を担当。特に内部監査については、金融、映画等すべてのビジネス領域を包括的に評価することを可能とするグローバルな内部監査体制を構築。2003年からはグローバルなソニーグループ全体の内部統制体制構築に勤める。ソニー退社後、新日本監査法人アドバイザーを経て、現在、内部統制コンサルティングBMDリサーチ代表。

田原中男氏の尖った提案 バックナンバー

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