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【海外のトレンド発信】世界の会計事情(国際事業買収)

2017年7月10日
モーゲンスターン・シカゴ 代表
米国公認会計士 村田幸伸氏

欧米の会社は中小企業であっても事業の売り買いを驚く程簡単に行う。
2千万円から2億円くらいの規模の売り買いなら日常茶飯事で、またそれが他国のビジネスであっても何の抵抗もなく行う。法律も違えば税法も違う他国のビジネスを買うには様々な調査が必要なように感じられるが、現実には最小限の調査(デューディリジェンス)で意外とスムーズに事が進んでいく。
企業買収ではなく事業買収が多い

私が経験した中では、中小企業の場合、企業そのものの買収よりも圧倒的に事業買収の方が多い。

『ビジネスAからはそろそろ手を引いて、ビジネスBに集中したい』という企業と『ビジネスAをもっと拡げていきたい』という企業の間でビジネスAの売買を行う形だ。例えば会計事務所で言うと、記帳業務はあまりやりたくない事務所も多いが、逆に記帳業務を専門に行っている会社もある。こういう場合に記帳業務だけを切り取って売買するというイメージだ。
事業シフト時にはまず売却を検討

通常日本ではビジネスAからビジネスBへの転換を考える場合、ビジネスBへの人材や資金の集中を最初に考えると思う。しかし欧米では撤退するビジネスAをいかに高く売るかという事を優先して考えるように感じられる。

撤退したいビジネスとは言え、力を抜けば業績が下がり売却価格が落ちてしまう。できるだけダウントレンドと評価されないよう売上をキープし続け、なるべく早く売却を成立させるよう動いている感じだ。
営業強化よりも買収を検討

一方買う側は、事業拡大時に『人員や広告投資を増やそう』や『新たな場所に支店を作ろう』という事を考える前に『いい買収案件はないか?』を優先して考えているように見える。

確かに、人材採用もうまく行くかわからないし、広告費を使ってもどれくらいの効果が出るかわからないしなど、自社での取り組みは不確定要素があまりにも多い。一方既に顧客を持っていて業務が回っている事業を買うのであれば、最初から現状の売上や利益は計算できる。とても現実的な事業拡大策だ。
事業買収のスキーム

事業買収で最も多い形が『顧客を買う』というスキームだ。

例えば先程の会計事務所の例で言うと、売却する事務所が顧客に「弊所は◯月◯日をもって記帳業務を◯◯社に移譲致します。以降は◯◯社が貴社の記帳業務を行います」といった内容の通知を行う。当然両社に問い合わせが殺到するわけだが、顧客の方も慣れていて問い合わせ内容は「新しい価格はいくらか?サービス内容は?新しい会社の担当者は?」といったとても業務的なものが多い。

日本で言うところの『担当者が代わります』という連絡と同じようなテンションで『担当する“会社”が代わります』と連絡しているような感じだ。
効率的な事業拡大&撤退

伸びているビジネスか下がっていくビジネスかで変わるが、概ね粗利の◯年分といった形で双方が金額を計算し、間を取ったあたりで買収金額が決定する。◯年分というところに無理がなければ銀行ローンを原資として買収しても十分に利益が上がる場合が多く、一気に現実的に事業を拡大する事ができる。また、売却側も事業撤退時の顧客対応など所々の問題も持たずに、その事業からキャッシュを生む事ができる。双方にとってとても効率的だ。

こういった小規模な買収案件は当然Big4監査法人が絡む事はなく、大手法律事務所も投資銀行も登場して来ない。しかし逆にローカルの会計事務所は税務業務が主業務でM&Aは扱っていなかったり、弁護士もM&Aに精通していない場合も多い。契約、デューデリ、インテグレーションまで一括してできるプレイヤーはあまり多くないので、弊所のような小規模事務所にとってはとても取り組み甲斐のある事業領域となっている。

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