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【米国のトレンド発信】遂にAI(人工知能)が税理士に! H&R BlockがIBMワトソンを導入

2017年2月5日
モーゲンスターン・シカゴ 代表
米国公認会計士 村田幸伸氏


  □ 米最大の税務サービス企業 H&R Blockが人の代わりにワトソンを店舗に配置
  □ 74,000ページに及ぶ米国税法と過去60年分の税務申告書を学習
  □ 税理士と話すようにワトソンと会話しながら税務申告を完了



アメリカでは今年も税務申告シーズンが始まり、巷ではこのニュースが話題となっています。H&R Blockは税務サービスのフランチャイズチェーンで、至る所に店舗があるとても有名な企業です。日本で例えるとTSUTAYAくらいどこにでもあり誰でも知っているイメージです。そのH&R BlockがAIを導入するという事で「今年の税務申告はワトソンと話しながらやるのかもしれない!」という期待が高まり、近年元気が無かったH&R Blockが脚光を浴びています。
膨大な税務の知識を持ったワトソン

74,000ページの米国連邦税法や各州の税法が全て頭に入っているCPAはいないので、知識量的には恐らくワトソンに叶う人はいないと思われいます。私達CPAとしては大きな危機感を覚えそうなニュースなのですが、実のところCPA達はあまり敏感に反応していません。なぜなら、H&R Blockが行っている『個人の税務申告業務』に関しては既に“決着が付いている”からです。
オンライン vs 店舗型 vs CPA

日本の確定申告にあたるこの個人の税務申告業務ですが、日本では今でも「税理士さんにお願いする」という方も多いと思います。アメリカでも昔は「CPAにお願いする」のが主流だったのですが、30年くらい前から「わざわざCPAにお願いしなくても、近所のH&R Blockに行けばいい」という流れになりました。更に15年程前からは「わざわざH&R Blockに行かなくても、自宅でオンラインでやればいい」という層もかなり増え、H&R Blockの勢いがTurbo taxなどのオンラインサービスに奪われていきました。それでも、未だに「CPAにお願いするのが安心」と思う層も、「オンラインよりH&R Blockで店舗の人と対面でやるのが安心」と思う層もおり、それぞれ住み分けができている近年の状況でした。
ワトソンの本当の役目とは?

個人の税務申告は、オンライン化できてしまうほどシステマティックにできうるもので、あまり“判断”の余地がありません。PC画面で質問に答えていくと申告できてしまうオンラインサービスか、店舗に行って担当者の質問に答えていくH&R Blockか、またはCPAと会話しながら申告書を完成させるかという『コミュニケーションの違い』がその本質となります。となると今回のAI導入は『店舗に行って人の代わりにワトソンと話しながら申告する』という新たな選択肢を消費者に提供することとなり、その本質はワトソンの知識量というより、コミュニケーション能力が大切な役目となってきます。
消費者はワトソンをどう受け止めるか?

多くの人々は「税務申告は複雑で難しい」と思っており、また「優秀なCPAにお願いすれば還付金が増えるのでは?」と思ったりしています。この美しき誤解が、未だにCPAに依頼する動機となったり、「CPAではなくても、せもてH&R Blockのスタッフと話しながら申告できたら安心だ」と思う原因となっています。そこでもしここに“CPA達よりも圧倒的に優秀なワトソン”が自分の税務申告をしてくれるとなったらどうでしょうか?「ワトソンならきっと凄い方法を使ってたくさん還付金を生み出してくれる」と思う人もいるかもしれません。

ブランディング&コストカット

一方、H&R Blockの側から見ると今回のAI導入は『話題作り』でもあり『ブランディング』でもあり、そして最後には『コストカット』の可能性も示唆しているように見えます。各店舗のフランチャイズオーナーからすると、店舗スタッフを雇ってH&R Blockの研修を受けさせて、そのうえ顧客対応の教育までするのはなかなか大変です。もしH&R Blockのフランチャイズ本部に追加の使用料を払えばワトソンを使えるのであれば、そちらの方が圧倒的に効率が増す可能性があります。


今年からH&R Blockに導入されるこのワトソンの成功如何によって、知的サービス業の今後のあり方が大きく変わってくるかもしれません。いつもは自分でやってしまう税務申告ですが、今年は是非H&R Blockに趣き、ワトソン君にやってみてもらおうと思います。

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